開発者の想い
i-Fusor Plus(IFP)の開発のきっかけは何ですか?

JMSでは、1990年代後半からPCAポンプの導入を開始しました。ところが医療従事者の皆様から意見を伺うと、その当時に比べ、ここ数年で医療現場の環境が大きく変化していることに気づきました。それは、「チーム医療」という概念が臨床現場で浸透していたことです。そこで、“チーム医療に適したPCAポンプの開発”をIFPの開発テーマとしました。
また、電動式PCAポンプの使用が一般化している海外とは違い、日本ではディスポーザブルポンプの使用が多いため、『臨床現場に合った製品を開発すれば、自ずと道は開ける!』という思いもありました。しかし、実際に営業部門を通して聞こえてくる「お客様の情報」だけでは、具体的な策が生まれず、正直何をすればよいのか分からない状態でしたが・・・(笑)。


ME事業部 石川さん
“チーム医療に適したPCAポンプ”とは何だと思いますか?

実際にPCAポンプを使用している医療現場を見る機会がありました。そこで分かったのは、いろいろな職種の方々がPCAポンプに関与しているということです。「ポンプを設定し、治療を開始する麻酔科の先生」、「実際に病棟でポンプを用いる主治医や看護師さん」、「調剤、残薬管理、薬剤指導をする薬剤師さん」、「PCAボタンを操作して治療に参加する患者さん」、「ポンプを管理する臨床工学技士さん」、これら全ての皆さんに使いやすく、安全なポンプを開発することが必要だと感じました。やはり現場を拝見し、お客様の想いをその場で感じたことが、開発の最大のヒントになりました。

“チーム医療に適したPCAポンプ”にするために、どのような工夫をしたのですか?

JMSは、「プリセット」という新しい概念をIFPに搭載しました。「プリセット」とは事前に設定できる機能のことです。

事前設定をしてしまうと、患者さんの個人差や病態の変化に対応できないのでは?

JMSが搭載した「プリセット」は、単純にPCAの設定パラメータを事前設定するだけではありません。それぞれの設定の上限・下限値の設定を設けることで安全域を確保します。
疼痛治療の専門家である麻酔科の先生が最初に基本設定を行うだけでなく、個人差や病態変化を予測して上限・下限の安全域を設定できます。更に、これまで設定変更に必要だったパスワード管理をなくし、安全域の中で簡単にタイトレーション(調整)が行えるようにしました。
下図がベース速度の事例です。

■ベース速度の上限・下限設定とタイトレーションのイメージ図

最初は基本設定で開始し、患者さんの痛みが強ければ(適切なボーラス投与が行われて)速度を上げ、逆に痛みがなければ速度を下げます。術後疼痛であれば、ベース速度が0になり、ボーラス投与が無くなった時点で治療を終了します。そうすることで、患者さんの病態に応じたきめ細やかな疼痛管理が、安全かつ簡便に行えます。

プリセット機能以外にも改良点があると聞きました。

はい。情報が表示される液晶画面を大きくしました。
というのも、これも実際にPCAポンプを使用している医療現場を見て気づいたのですが、PCAポンプの投与量やボーラス要求回数は、病棟看護師さんが定期的に記録しています。これらのデータはタイトレーションを行うための重要なデータです。
これまでのポンプは表示画面が小さいため、一度に表示できる情報量が限られ、必要なデータを確認するためにキー操作が必要でした。そのため「キー操作を間違えて困った」という意見が目につきました。そこでIFPは、前機種の5倍の情報表示を可能にし、病棟看護師さんに必要な情報は常に表示できるように改良しました。

■IFPの液晶画面
最後に、お客様に伝えたいことや将来の展望は?

ME事業部 石川さん

お客様が実際に使用する現場を見ることで、製品に対するニーズが理解できた結果、このIFPが誕生しました。これからも医療現場の皆様の声を製品開発に活かしたいと考えています。
また、JMSは敢えて国産PCAポンプにこだわりを持っています。日本はディスポーザブルポンプが長い間主流だったため、多くの日本企業がディスポ-ザブルポンプを開発しています。それに対し、電動式ポンプは海外製品が中心であり、JMSもIFPを開発するまでは海外製品を輸入していました。しかし、「日本の医療現場の視点を取り入れ、臨機応変に対応できるのは国産だ!」という結論に達し、製品開発に力を入れています。
今後の展開として、IT技術の発展から自動的な情報管理への必要性を感じています。また、他のモニタリング装置やシステムとの連動も必要だと思います。これからも、より臨床現場に近いスタンスで開発を行い、安全な医療機器をいち早く提供していきたいと考えています。